こんにちは、アプリコットデザインの中村です。今日は、見積書の話を書いてみます。
見積書を作っています。中身はもう決まっていて、あとは金額を入れるだけ。数字を打ち込んで、そこで手が止まります。
相手の顔が浮かびます。事務所の広さとか、乗っている車とか、去年はきつくてね、と前に聞いた話とか。
そして、こう思います。この会社に、この金額は、ちょっと高いかもしれない。
一段下げて、そのまま送る。
このとき、相手はまだ何も言っていないんですよね。高いとも、安いとも。
今日は、その一段の話です。先に言ってしまうと、これは結構失礼なことをしていると思っています。やさしさのつもりでやっているのですが、やっていることは、相手の財布の中身をこちらが勝手に決めるということなので。
値打ちを感じたかどうかで決まる
人が買うかどうかを決めているのは、値打ちがあると感じたかどうかだと思っています。
お金にシビアな方でも、いま手元に余裕がない方でも、これは値打ちがある、と思えば買います。むしろ、お金にシビアな方ほど、そこをよく見ています。
シビアというのは、一円も出したくない、という意味ではないんですよね。何に出すかを、自分でちゃんと選んでいる、ということです。ですから、そういう方に安い金額を出しても、あまり響きません。安いものを探して来られたわけではないので。
同じ一人の人が、二百円のものを高いと言って棚に戻す日もあれば、十万円のものをその場で決める日もあります。お金の余裕は、そんなに変わっていないはずです。変わったのは、値打ちを感じたかどうかだけです。
外から見えるのは過去の使い道だけ
それに、外から見えるものと、出せるお金は、あまりつながっていません。
事務所が古くても、ここには出すと決めている会社があります。立派な建物なのに、この費用は一円も動かせない、ということもあります。
外から見えているのは、その会社が今までに何にお金を使ってきたかだけです。これから何に使うかは、外からは見えません。
つまり、相手の懐を想像して金額を決めても、たぶん当たりません。当たらないうえに、失礼でもあります。
決める役を取り上げている
なぜ失礼なのかというと、決める役を、こちらが取り上げているからです。
買うか買わないかは、相手が決めることです。自分の持っているお金と、目の前のものを見比べて、自分で決める。
こちらが先に下げるというのは、その手前で値札を貼るのと同じです。あなたはここまでの人ですね、という値札。しかも、その値札は、貼られた本人には見えません。見えないまま、そう扱われている。自分が貼られる側だったら、あとで知って、いい気持ちはしないと思います。
それに、下げたあとも、あまりいいことは起きません。
下げた分、中身を削るか、削らずにやって自分が苦しくなるか、だいたいどちらかになります。削れば、相手が受け取るものが減ります。しかも、相手は減ったことを知りません。削らなければ、こちらが苦しくなります。これは自分で決めたことなので、誰にも言えません。
どちらにしても、安くしたということ自体が、相手には伝わっていないんですよね。
提案の中身でも同じことが起きる
これは、金額だけの話ではありません。
本当はこうしたほうがいい、という案があるのに、この会社にはたぶん出せないだろうと思って、机の上に出さずにしまう。
相手は、その案があったこと自体を知りません。知らないので、答えることもできません。断られたのではなく、見せていないだけです。
金額の材料は仕事の中身のほうにある
ここで、逆のことも言っておきたいと思います。じゃあ、高く出せばいいんですか、と聞かれると、そういう話でもありません。
金額を決める材料は、仕事の中身のほうにあります。相手の様子は、そこに入ってきません。何をどこまでやるのか。それが決まれば、金額は決まってきます。相手が誰であっても、同じ中身なら、同じ金額になる。それだけの話です。
では、なぜ相手の懐を想像してしまうのか。やさしさの顔をしていますが、根っこにあるのは、たぶん、こわさです。
高いと言われるのがこわい。断られるのがこわい。だから、言われる前に自分で下げておく。言われる前に、自分で断っているようなものだと思います。
そして、こわさで下げた金額は、あとで戻すのにとても時間がかかります。一度出した数字が、その人との基準になるからです。次も、その次も、そこから始まります。
順番を守る。範囲で下げる。予算は聞く
僕も、大きな金額のときは、今でも指が止まります。ですから、順番だけは守るようにしています。
中身を先に決めて、そのあとで金額を出す。金額を出したあとに、相手の顔を思い浮かべない。ここで思い浮かべてしまうと、たいてい一段下げてしまうので。
もう一つ。高いと言われたときに、金額だけを下げないようにしています。
同じ中身のまま値段だけを下げると、最初に出した金額が嘘だったことになります。次から、その見積書は少し割り引いて見られてしまいます。ですから、下げるときは、やることの範囲を減らします。十のうち八くらいにして、その分、金額も下がる。ホームページなら、作るページの数を八枚にする。これなら、どちらの数字も本当のままです。
それから、予算を聞くこと自体は、失礼ではないと思っています。失礼なのは、想像するほうです。
ご予算はどれくらいですか、と聞けば、相手は答えてくれます。言いたくなければ、言わないだけです。それでいいと思っています。聞かずに想像すると外れますし、外れたことに、こちらは気づけません。相手はたいてい、何も言わないので。
上向きの想像も同じこと
使い方を間違えると逆になるので、そこだけ書いておきます。
これを、値上げの理由には使わないほうがいいと思っています。相手の懐を想像しないというのは、金額を相手によって変えない、というだけのことです。上げていい理由にはなりません。
この会社は儲かっていそうだから、少し高めに出しておこう。これも、相手の財布を見て決めています。下げるのと、向きが違うだけです。
なお、話したうえで、やる範囲を一緒に決め直すことはあります。これは相手と一緒に決めたことなので、想像とは別のものだと思っています。
会社の中でも同じ形で起きる
ここまで値段の話をしてきましたが、これは会社の中でも同じことが起きます。
この仕事は、あの人にはまだ早いだろう。そう思って渡さずに、自分でやる。忙しそうだから、この話は持っていかないでおこう。
相手に聞かないまま、相手の余裕をこちらが決めている。値段の話と、まったく同じ形です。やってみたかったかどうかは、聞いてみないと分かりません。
次に見積書を作るとき、金額を入れたところで、一度手を止めてみてください。いま、誰の顔が浮かんだか。誰も浮かんでいなければ、その数字は、たぶん自分の仕事の数字です。
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