こんにちは、アプリコットデザインの中村です。今日は、記憶の残り方から、ブランドの話を書いてみます。
はじめに、お店の話をさせてください。
料理はすごくおいしいのに、もう行かないな、と思ったお店。ありませんか。
味は文句なしで、値段も納得できて、場所も悪くない。なのに、二回目がない。
理由をたどっていくと、たいてい、料理じゃないところにあります。
店員さんを呼んでも気づいてもらえなかったとか、お手洗いが気になったとか、お会計のときの一言が、そっけなかったとか。
たぶん、たった一個なんですよね。あとは全部よかった。それでも、足が向かなくなる。
人は、平均で覚えていない
これ、不思議だなと思っていて。
十個の項目があって、九個が満点で、一個だけ低かったとします。平均したら、かなり高い点です。数字で見れば、いいお店なんですよ。
でも、人の頭に残るのは、平均じゃないんです。低かった一個のほうが残ります。
なぜかというと、良かったところは、そういうものとして受け取られるからです。
おいしいと思って行っているので、おいしいのは前提なんですよね。前提が満たされても、記憶には残らない。
引っかかったところだけが、残ります。
僕は、ブランドって、これと同じだと思っています。
いちばん良いところで決まるんじゃなくて、いちばん弱いところで決まる。
会社に置き換えてみます
ホームページを、お金をかけて、きれいに作ったとします。写真も撮り直した。言葉も、時間をかけて練った。
そこまでは、すごくいいんです。
でも、そのフォームから問い合わせが来たときに、返事が三日後だったとします。
その瞬間に、写真の良さは、もう関係なくなるんですよね。
あるいは、名刺はいい紙で、ロゴもきれいなのに、そのあと届く見積書が、罫線だらけの表計算のまま、ということもあります。
打ち合わせはすごく感じがいいのに、送られてくるメールの署名だけ、十年前のままだったり。
どれも、小さいことなんですよ。誰も指摘しません。言うほどのことでもないので。
ただ、受け取った人の中では、そこだけが、妙に残ります。
しかもこれ、良いところがあるほど、目立つんですよね。
ここまでちゃんとしている会社が、ここは、こうなんだ、と。期待が上がったぶんだけ、下がったところがはっきり見える。
ですから、一生懸命いいものを作った会社ほど、この話が効いてきます。
社内では業務、社外では印象
じゃあ、なぜ自分たちで気づけないのか。
理由は、はっきりしています。毎日やっているからです。
自分の会社の見積書は、毎日見ています。見慣れているものって、良いも悪いも感じないんですよね。ただの、いつものやつになる。
電話の受け答えも、自動返信のメールも、駐車場の入り方も、全部そうです。
社内では、それは業務なんですよ。作業として片づけるもの。
でも、外から来た人にとっては、そこが最初の印象だったりします。
この、社内では業務、社外では印象、というズレが、いちばん弱いところを見えなくしています。
外の人が触れる順番に、全部書き出す
では、どうやって見つけるか。
僕がお客様とやるときも、最初にやるのはこれなんですけど。
その会社に、外の人が触れる順番に、全部書き出していただきます。
検索する。サイトを見る。フォームに入れる。自動返信のメールが届く。電話が鳴る。誰かが出る。会いに行く。駐車場に停める。案内される。話をする。見積書が届く。契約する。作る。納品する。請求書が届く。そのあとで、また連絡が来る。
だいたい、十五個から二十個くらいになります。
ここまで書けたら、一つずつ、点をつけていきます。自分たちで、正直に。
そうすると、必ず低いところが出てきます。しかも、たいてい、みんな薄々分かっているんですよ。あそこだよね、って。
やることは、そのうちの、いちばん低いところを、一個だけ直すことです。
面白いのは、いちばん低いところを直すと、全体の印象が変わることなんですよね。
いちばん高いところを、もっと高くしても、印象はあまり変わりません。九十点を九十五点にしても、外の人は気づかない。
でも、三十点を六十点にすると、はっきり変わります。
お金の使い方の話でもあります
そろそろホームページを作り直そう、となったときに、使えるお金が全部サイトに向かうことって、けっこうあります。
でも、いまいちばん弱いのがサイトじゃなかったら、そこにお金を入れても、印象は変わらないんですよね。
先に、返信の速さを直したほうが効くこともあるし、見積書のかたちを整えるだけで変わることもあります。
これ、うちの仕事が減る話なんですけど、実際そう思っています。効かないところに作ると、結局、作っただけになってしまうので。
じゃあ、全部を平均的にすればいいのか
ここまで話すと、こう聞かれることがあります。じゃあ、全部を平均的にしておけばいいんですか、と。
それは違うと思っていて。
強いところと、弱いところは、役割が違うんですよね。
強いところは、選ばれる理由になります。あの会社にお願いしたい、の理由は、必ずどこかが突き抜けているところから生まれる。平均的にきれいなだけの会社に、わざわざ頼む理由はないので。
一方で、弱いところは、選ばれる理由にはなりません。そのかわり、選ばれなくなる理由にはなります。
つまり、強いところで入り口ができて、弱いところで出口ができている。
だから、強みは伸ばしていいんです。むしろ伸ばしたほうがいい。
ただ、その強みを台無しにしているのは、たいてい、強みじゃないところなんですよ。せっかく作った入り口の横に、大きな出口が開いている状態になっている。
順番の話だと思っています。伸ばすのはやめなくていい。ただ、その前に、出口を一つ塞いでおく。
隠すと、弱いところはもっと弱くなる
もう一つ、気をつけたいことを書いておきます。
弱いところを、隠す、というやり方があります。
写真をうまく撮って、古いところを写さない。文章で、まだできていないことを、できているように書く。
これは、短い間は効きます。問い合わせも増えるかもしれない。
でも、来た人は、実物を見るんですよね。そこで、聞いていた話と違うな、が起きる。
一度そう思われると、そのあと何を言っても、話半分で受け取られます。
つまり、隠すと、弱いところが、もっと弱くなる。写真がきれいだったぶん、落差が大きくなるので。
だから、隠すより、直すほうが早いです。
そして、すぐに直せないなら、先に言っておいたほうがいい。
古い建物だけど、掃除は毎日しています、と書いてあるほうが、よっぽど信用されます。弱さを先に言える会社は、それだけで強く見えるので。
これは、個人にも当てはまります
ここまで会社の話をしてきましたけど、これ、一人で仕事をしている人にも、会社の中で働いている人にも、そのまま当てはまります。
たとえば、返事の速さ。資料の一ページ目。話し始めの三十秒。名前を名乗ったあとの、次の一言。
自分がいちばん時間をかけているところより、いちばん雑になっているところで、その人の印象は決まっていたりします。
これも、やっぱり自分では分からないんですよ。毎日やっているので。
なので、近い人に聞いてしまうのが早いです。
うちで、いちばんもったいないところって、どこだと思う。そう聞くと、けっこうあっさり答えが返ってきます。
スタッフでも、家族でも、長く付き合っているお客様でもいいと思います。
みんな、気づいてはいるんですよね。ただ、わざわざ言うことでもないので、言わずにいただけで。聞かれたら、答えてくれます。
まとめ
人は、平均で覚えていません。低かった一個のほうを覚えています。
だから、ブランドは、いちばん良いところじゃなくて、いちばん弱いところで決まる。
その弱いところは、たいてい、自分たちが毎日やっていて、見慣れてしまった場所にあります。社内では業務、社外では印象、というズレのところです。
見つけ方は、外の人が触れる順番に、全部書き出して、正直に点をつけること。そして、いちばん低いところを、一個だけ直す。
もしよかったら、今日、自分の会社の見積書とか、自動返信のメールとか、そういう、いちばん見慣れているものを、一回だけ、初めて見る人の気持ちで開いてみてください。
たぶん、何かしら発見があると思います。
JOURNALが気に入ったら「いいね」してね!



