こんにちは、アプリコットデザインの中村です。今日は、事業をやっている方にこそ要るデザインのスキルの話です。
先に断っておくと、自分で作れるようになってください、という話ではありません。作るのは、僕らみたいなデザイナーの仕事なので。お渡ししたいのは、出てきたものを見て、どこが良くてどこが悪いのかを言葉で言えるようになるほうです。
そしてもう1つ。デザインはセンスではなくて、論理です。良し悪しにはちゃんと理由があります。理由があるということは、覚えれば言えるようになる、ということでもあります。
「なんかダサい」と言うと、直しが3回になる
チラシでも、資料でも、ホームページでも、上がってきたものを見て「なんかダサいんだよね」と言ったことはないでしょうか。僕は言われる側なので、よく分かります。
このとき何が起きているかというと、直す方向が誰にも分からなくなっています。作った側は当てにいくしかないので、色を変えてみたり、写真を大きくしてみたりする。それを見てまた「違うな」となる。3回やり直して、結局いちばん最初の案に戻る。わりとよくあるんじゃないかと思います。
時間もお金もかかっていますが、いちばん減っているのは、たぶんお互いの気持ちのほうです。
逆に、指摘が具体的だと直しは1回で終わります。「ここの間隔が広い」と言われたら、直すところは1か所しかないので。
発注する側が言葉を持っているかどうかで、同じ予算で出てくるものが変わります。ここが、僕がスキルだと言っている部分です。
道具は4つしかない
その言葉は、どこから持ってくるか。有名な本があります。ロビン・ウィリアムズさんの『ノンデザイナーズ・デザインブック』。デザイナーではない人のための本、という題名のとおりで、1994年に出てから、いまも版を重ねています。
この本が言っているのは、たった4つです。近接、整列、反復、対比。1つずつ書きます。
1つ目、近接
関係のあるものは近づけて、関係のないものは離す、という決まりです。
たとえば、見出しと、その下の本文。この2つは関係があるので、近づける。次の見出しとの間は、関係が切れるところなので、離す。それだけです。
ダサく見えるチラシは、だいたいここが逆になっています。見出しと本文が離れていて、段落と段落がくっついている。すると読む人は、どの見出しがどの文章のものか分からなくなります。読みにくいのではなく、意味の切れ目が分からない。
2つ目、整列
見えない線に、端をそろえる、という決まりです。
紙の上に見えない縦線が1本ある、と思ってみます。見出しも、本文も、写真も、その線に左端をそろえる。これだけで、素人っぽさは半分くらい消えます。
やってはいけないのが、なんとなく真ん中に置くことです。中央ぞろえは、選んで使えばきれいに決まりますが、迷って使うと、全部の要素がばらばらな位置に見えてしまいます。
3つ目、反復
同じ役割のものは、同じ見た目にする、という決まりです。
小見出しが3つあるなら、3つとも同じ大きさ、同じ太さ、同じ色にする。ページが変わっても変えない。同じ形をくり返すことで、読む人は「これは見出しだ」と覚えます。覚えたあとは、探さなくても目に入ってくるようになります。
4つ目、対比
違うものは、はっきり違わせる、という決まりです。コントラストと言うこともあります。
見出しと本文の大きさが少しだけ違う、というのがいちばんよくない状態です。少しだけ違うのは、そろえ損ねたように見えてしまう。大きくするなら思いきり大きく、細くするなら思いきり細く。中途半端をなくす。そう覚えておくといいと思います。
この4つだけです。センスの話は、1つも出てきません。
「なんかダサい」を、言い換えてみる
4つを手に入れると、現場の言葉がこう変わります。前と後で並べてみます。
- 「なんかダサい」→「見出しと本文の間隔が、段落どうしの間隔より広いので、どの文章の見出しか分かりません」(近接)
- 「なんかバラバラ」→「写真の左端と、見出しの左端が5ミリずれています。そろえてください」(整列)
- 「素人っぽい」→「小見出しが、太字のところと色つきのところと大きいところで違います。1つに決めてください」(反復)
- 「メリハリがない」→「見出しと本文で、文字の大きさが近いので、どこから読めばいいか分かりません。はっきり差をつけてください」(対比)
- 「もっと目立たせて」→「このページでいちばん言いたいのは、創業50年の1行です。そこだけ大きくして、あとは小さくしてください」
最後の1つは補足させてください。目立たせるというのは、全部を大きくすることではなく、順番を決めることなんですよね。
カフェをやっている方のメニューなら、料理名と値段の間を点線でつなぐより、料理の名前と説明文を近づけて、料理と料理の間をあけるほうが読めます。同じ話です。
紙に出すと、見えてくる
自分の会社のチラシか、資料を1枚、紙に印刷してみます。画面で見ると気づかないことが、紙のほうが際立って見えてきます。
その状態で、4つを1つずつ見ます。関係のあるものが近くにあるか。左端がそろっているか。同じ役割のものが同じ見た目か。差をつけたいところに、はっきり差がついているか。
見つかったところに、そのまま赤で書き込む。それだけで、フィードバックが的確になるので、次に仕上がってくるものが変わってくると思います。
覚えても、作れるようにはならない
正直に書いておくと、この4つを覚えても、作れるようにはなりません。並べるところから先、たとえば書体を選んだり、写真の一枚を決めたりするところは、経験の要る仕事です。そこはデザイナーの領分なので、やらなくていいと思います。
覚えると変わるのは、判断のほうです。出てきたものに丸をつけるか、どこを直してほしいか言えるようになる。作る力と判断する力は別のもので、経営者が持つべきなのは後ろのほうだと思っています。
僕もこの仕事を始めたころは、センスだと思っていました。上手い人は上手い、で終わらせていたところがあります。ただ、理由を説明できないと人に頼めないので、結局は自分でやり直すことになるんですよね。
いま、お客様から具体的な指摘をいただくと、作業はすごく早くなります。何が良くて何が悪いかが共有できているので、こうじゃないかな、と当てにいかなくていい。上手い下手の話ではなくて、共通の言葉があるかどうかだと思っています。
もしお手元に何かデザインしたものがあれば、今日はその視点で見てみるといいかもしれません。新しい気づきがあると思います。
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