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経営者の仕事

苦しい時に数字だけで決めると、何もしないという結論になる

WRITER
Nakamura Hiroki クリエイティブディレクター / 代表取締役
Nakamura Hiroki

クリエイティブディレクター / 代表取締役。ブランドマネージャー1級/インターナルブランディング認定コンサルタント/WEBデザイン技能士/WEBマーケティング検定/ネットショップ実務士。

苦しい時に数字だけで決めると、何もしないという結論になる
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こんにちは、アプリコットデザインの中村です。今日は、会社が苦しかったときの判断の話を書きます。結論から言うと、苦しいときに守るべきなのは残高ではなくて「作れる状態」のほうです。そして苦しいときは数字がどれも良くないので、数字で説明できる判断だけを並べると、最後は何もしないという結論になります。

まず、どういう状況だったかというと。

会社が五年目に入ったころ、スタッフは十数人になっていました。売上も結構いいところまで来ていて、数字だけ見れば順調でした。

あとから思うと、ここが怖いところなんですけど、数字が伸びているときって、内側の状態が見えないんですよね。

売上のグラフは上がっている。人も増えている。だから、うまくいっていることになります。誰かがしんどいと思っていても、その気持ちはグラフには出てきません。僕は毎日みんなの顔を見ていたはずなんですけど、それでも見えていませんでした。というより、見なくて済んでしまっていた、というほうが正確だと思います。

人が辞めて負のループが回り始めた

そこから、人が辞め始めました。原因ははっきりしています。僕が無理に会社を成長させたツケでした。仕事が増えて、みんな残業しないと回らない。自分も忙しくてサポートできない。話す時間も取れない。それで、みんな疲れてしまった。

やっかいだったのは、ここからです。

人が辞めたので、補充のために採用します。でも、新しく入ってきた人も、数か月で辞めていくんですよ。

理由は、今なら分かります。入ってきた人が受け取ったのは、疲れきった職場と、山積みの仕事だったからです。教える余裕も、うちにありませんでした。だから辞めていく。そうすると、残った人がまた疲れる。

入ってくる人の側に立って考えると、当然だなと思います。新しい職場に来て、周りの人がみんな余裕のない顔をしていて、質問していいのかどうかも分からない。仕事だけは初日から積まれている。そんな場所に、続けたいと思う理由がないんですよね。

そのころの僕は、その人が続かなかったことを、その人の問題のように受け取っていたと思います。そうではありませんでした。受け入れる側の状態の問題だったんです。

負のループという言い方をしますけど、あれは本当にループなんですね。しかも、自分で回してしまっている。

作り手がいないと納品ができない

そして、ここがいちばんきつかったんですが、作り手がいなくなると、仕事を受けても納品ができないんです。

依頼はある。でも、作れない。だから受けられない。受けられないので、売上が減って、お金も減っていく。

人が減ると、仕事が減る。当たり前のことなんですけど、そのときの僕は、その当たり前を初めて体で理解しました。

もうダメかもしれない、と本気で思っていました。申し訳ないけど、これ以上は続けられないかもしれない、と。頭の中はほとんどパニックでした。

給料が払えるか分からない月に一人採用した

そういう時期に、一件、求人の応募が来ました。

普通に考えたら、採れる状況じゃありません。会社のお金は底をつきそうで、来月の給料が払えるかどうかも分からない。そんなときに人を増やすというのは、どう考えても間違っています。

でも僕は、その人を採りました。

なぜかというと、なぜか惹かれたからです。それ以上の理由が、正直、言えません。今でも不思議で仕方がないんです。あのとき自分が何を考えていたのか、思い出そうとしても出てこない。

ただ、結果から言うと、この採用が会社のターニングポイントになりました。その人が入ってから、うちの作るものの質が上がったんです。そうすると、その実績を見て、良いお客さんが来てくださるようになる。良い仕事をさせてもらえるから、また質が上がる。そこから、会社は回復に向かっていきました。

守っていたのは残高ではなかった

ここからが、今日いちばん書きたかったことです。

追い詰められているときって、判断がぜんぶ「減らす」ほうへ向くんですよね。お金がないから、使わない。人がいないから、受ける仕事を減らす。とりあえず耐える。守りに入る。これは自然な反応ですし、間違いだとも思いません。

でも、あのとき僕が守ろうとしたのは、残高じゃなかったんです。

もし残高を守る判断をしていたら、採用は見送っていたと思います。そうすると、作り手は足りないままです。作れないので、仕事も受けられない。売上は減り続けて、結局お金はなくなる。ただ、少しゆっくりなくなるだけです。たぶん、静かに終わっていたと思います。

そう考えると、あのとき守っていたのは、お金ではなくて、作れる状態のほうだったんだと思います。当時そこまで考えていたわけではないので、あとづけの説明ではあるんですけど。

残高というのは、結果として出てくる数字なんですよね。減っていくのが見えるので、いちばん怖いです。でも、その数字を作っているのは、作れる状態のほうなんです。順番でいうと、作れるから、納品できて、お金が入る。だから、作れる状態が先で、残高はあと。怖いほうから守りにいくと、順番が逆になります。

正しい判断を全部足すと何もしないになる

もう一つ思うのは、数字で説明できる判断だけを並べていくと、たぶん全部同じ結論になる、ということです。

苦しいときって、数字はどれも良くないんですよ。残高も、受注も、稼働も、全部良くない。その良くない数字を根拠に判断していくと、どの項目でも「やめておこう」が出てきます。それぞれは正しいんです。ただ、正しい判断を全部足すと、何もしないという結論になる。

だから僕は、あの一件が説明できないままでいいと思っています。全部を説明できるようにしてしまうと、たぶんあの判断は消えていたので。

これをいい話にはしたくない

ただ、この話をいい話にはしたくないんです。

そもそもこの状況を作ったのは僕だからです。無理に会社を伸ばして、みんなが疲れきる状態を作って、その結果として人が辞めた。壊したのは僕なんですよ。そのあとに一人採って持ち直したからといって、差し引きでプラスになったわけではありません。

それに、これを「ピンチのときこそ攻めろ」みたいな話にしてしまうと、たぶん危ないと思います。あれは、僕がうまく判断したわけではないので。理屈で決めたことなら、人にもおすすめできるんですけど、説明できないことをおすすめするわけにはいかないんですよね。

もう一つ、正直に書いておくと、僕はあのとき学んだはずのことを、今も完全にはできていません。仕事を自分に集めてしまう癖が、まだあります。人に頼むより自分でやったほうが早い、という感覚に、たまに戻ってしまう。あの五年目の状態は、じつはそこから始まっているので、僕にとっては終わった話ではなくて、まだ気をつけ続けている話です。

今どっちを守ろうとしているか

なので今日は、こうすればうまくいく、という話ではありません。

もし今、うまくいっていない時期にいる方がいたら、という前提で言うと。一つだけ思うのは、判断が全部「減らす」に寄っていないか、ときどき見てみてもいいのかもしれない、ということです。減らす判断は正しいことが多いです。でも、全部が減らすに寄っているときは、たぶん怖さのほうが判断していると思うんですよね。

そういうときに、自分は今どっちを守ろうとしているんだろう、と一回考えてみる。残高のほうなのか、作れる状態のほうなのか。それだけでも、見え方が少し変わるかもしれません。

会社をやっていて思うのは、経営は大変だし、けっこう孤独だな、ということです。数字は結果として出るものなので、あとから振り返れば説明もつきます。でも、渦中にいるときは何も見えていません。

一人で始めた会社が今も続いているのは、僕がうまくやったからではなくて、あのとき力を貸してくれた人たちがいたからです。それは、はっきりそう思います。

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