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ブランディング 2026.08.12

返報性は、技として使おうとした瞬間に効かなくなる

WRITER
Nakamura Hiroki クリエイティブディレクター / 代表取締役
Nakamura Hiroki

クリエイティブディレクター / 代表取締役。ブランドマネージャー1級/インターナルブランディング認定コンサルタント/WEBデザイン技能士/WEBマーケティング検定/ネットショップ実務士。

返報性は、技として使おうとした瞬間に効かなくなる
この記事は、YouTube(音声ラジオ)でも聴けます。作業のおともに、ながらでどうぞ。

こんにちは、アプリコットデザインの中村です。今日は、心理学でいう「返報性の法則」の話を書いてみます。

人は何かをもらうと、返したくなる。それだけの話です。ちょうどお中元の季節ですが、いただくと、うちも何か送らないと、と考えてしまいますよね。あれがまさにそうです。

マーケティングの本を読むと、たいていこれが出てきます。先に与えなさい、ギブが大事です、と。聞いたことがある方は多いと思います。

ただ、やってみたけどあまり返ってこない、という話も、けっこう聞くんですよね。今日は、なんで返ってこないんだろう、という話を書きます。

同じ試食でも、まったく逆になる

まず、返報性そのものは本当にあると思っています。

分かりやすいのがスーパーの試食です。爪楊枝に刺さったウインナーをひとつもらう。食べてみて、おいしい。それでなんとなく悪いなと思って、一袋カゴに入れる。

これは値段で選んでいないんですよね。おいしかったから、というのも半分くらいで、もうもらってしまったから、というのが残りです。

旅先でお店の人がお茶を出してくれたら、何も買わずに出るのが少し気まずい。道を聞いたら途中まで一緒に歩いて連れて行ってくれたら、そのお店のことを悪く言えない。人はそういうふうにできています。もらいっぱなしは、居心地が悪いんです。

では、渡せば返ってくるのか。ここからが本題です。

同じ試食でも、まったく逆になることがありますよね。

売り場の人が通路に立っていて、目を合わせてくる。どうぞ食べてみてください、と言ってくる。食べたら絶対に何か言われる。そう思った瞬間に、僕らはそこを避けて通ります。

同じものを差し出しているのに、片方は買いたくなって、片方は逃げたくなる。

何が違うかというと、見返りを期待されているかどうかです。

人は、そこをものすごく正確に見抜く

これがけっこう怖いところなのですが、人はそこを、ものすごく正確に見抜きます。

言葉ではないんですよね。距離とか、目線とか、渡したあとの間とか。渡してからこちらをじっと見ているかどうか、とか。

返報性を狙って渡したものは、渡した瞬間に、狙いのほうが伝わってしまいます。

伝わると、もらった側は借りを作らされた気持ちになります。借りというのは、返したくなるものではなくて、逃げたくなるものなんですよね。

ですから僕は、返報性は技として使えないものだと思っています。というより、技として使おうとした瞬間に効かなくなる。そういう性質のものなんじゃないかと思っています。

基準はひとつでいい

では、どうしたらいいのか。

基準をひとつだけ持っておくといいと思っています。

返ってこなくてもいい範囲で渡す。

これだけです。返ってこなかったときに腹が立たない量。がっかりしない量。それより多く渡さない。

そうすると、渡し方が勝手に変わります。見返りを見ていないので、相手にもそれが伝わる。伝わると、今度は本当に返ってくることがあります。

順番が逆なんですよね。返ってくるように渡すと返ってこなくて、返ってこなくていいと思って渡したときにだけ返ってくる。

渡すものは、値引きでなくていい

もうひとつ、何を渡すか、という話をさせてください。

渡すものというと、無料のサービスとか割引とか、そういう話になりがちです。ですが、それだけではないと思っています。

たとえば、手間です。お問い合わせのメールに、定型文ではない返事を書く。相手の状況を読んで、うちでは受けられない場合でも、こういうところに聞くといいですよ、と書いてお返しする。お金にはなりません。でも、受け取った方は覚えています。

あるいは、時間です。すぐ返す、というのも渡していることのひとつですよね。返事が早い方には、なんとなくこちらも早く返したくなります。

あとは、気にかけること。前に聞いた話を覚えていて、次に会ったときに、あれどうなりましたか、と聞く。これも渡しています。しかもお金は一円もかかっていません。

うちの会社で言うと、この発信もそうです。

僕がここで話しているのは、実際にお客様と一緒にやって、うまくいったことだったりします。それをそのまま話しているので、聞いた方が自分でやってしまえば、それで終わりです。うちに依頼は来ません。

ただ、それでいいと思っています。自分でやってみて、どうにもならないところが出てきたときに、あの人が言っていたな、と思い出してもらえたら、それで十分だと思っているので。

渡しすぎると、逆に離れていく

これは意外と見落とされていることなのですが、渡しすぎると、逆に離れていきます。

そんなに親しくない方から、やたら高いお土産をもらったとします。うれしいことはうれしいのですが、同時に、これどうやって返そう、と思いますよね。

返せる気がしない量をもらうと、人はその相手と距離を置きます。会うのが、少し重たくなるので。

ですから、渡すものは、相手が軽く返せるくらいの大きさがいいんだと思います。お返しを考えなくて済むくらい。

仕事でも同じです。無料でここまでやります、というのを大きくしすぎると、頼むほうが身構えてしまいます。こんなにしてもらったら断れないな、と。

断れない状態は、選んでもらったことになりません。

断ろうと思えば断れる方が、それでも選んでくださった。そこにしか意味がないと思っています。軽く受け取れて、軽く断れる。そのくらいがちょうどいいです。

返ってくる先は、渡した相手とは限らない

これは続けているとだんだん分かってくることなのですが、返ってくる先は、渡した相手とは限りません。

親切にした相手からは何もなくて、まったく関係のないところから、あの人がいいって言ってましたよ、と話が来る。紹介って、たいていその形で来ますよね。渡した相手からではなくて、その方が誰かに話した先から来ます。

ですから、あの人に渡したのに返ってこなかった、という数え方をしていると、途中でやめたくなります。実際には返ってきているのに、見ている場所が違うだけ、ということが起きます。

しかも、時間が空きます。半年後とか、二年後とか、忘れたころに来る。一件ずつ帳尻を合わせようとしないほうが、たぶん長く続きます。全体でなんとなく合っていればいい、くらいで。

やらないほうがいいこと

ひとつだけ、やらないほうがいいことを書いておきます。

恩を着せる、というやつです。

これだけやってあげたのに、というのが一度でも出ると、それまで渡してきたものが、全部まとめて請求書に変わります。

渡した側は善意のつもりなんですよね。でも受け取った側からすると、あれは前払いだったのか、という話になる。それまでの何年かが、まとめて塗り替わってしまいます。

ですから、渡したあとは忘れるのがいちばんいいんだと思います。覚えているのは、もらったほうでいい。

使わないでいられるかどうか

返報性には、もうひとつの使われ方があります。

先に大きなお願いをして、断られてから小さいお願いをする。そうすると相手は、こちらが譲ってくれた、と感じて、それくらいなら、と受け取ってくださる。交渉術の本によく載っていますし、これは実際に効くと思います。

でも、僕はこれは使いません。

効いたとしても、相手はあとから、なんであれを受けたんだろう、と考えるからです。その気持ちは、次に会うときまで残ります。

一回きりの取引なら、それでいいのかもしれません。ただ、うちは同じ会社と何年もお付き合いするので、一回通すために次を失うのは割に合わないんですよね。

返報性の話は、たいてい「どう使うか」で語られます。ですが僕は、使わないでいられるかどうかという話だと思っています。

まとめ

もらったら返したくなる、というのは本当にあります。ただ、それが起きるのは、見返りを期待されていないと感じたときだけです。

だから、渡すときの基準はひとつでいいと思っています。返ってこなくても平気な範囲にしておく。

渡すものは値引きでなくて構いません。手間とか、早い返事とか、前に聞いた話を覚えていることとか。お金がかからないものほど、よく効きます。

そして、渡したことは、こちらは忘れる。

今日、誰かひとりに、返ってこなくてもいい何かを渡してみると、来月あたり、思ってもみないところから返ってくるかもしれません。

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