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ブランディング 2026.08.01

ロゴは、ブランドをつくらない

WRITER
Nakamura Hiroki クリエイティブディレクター / 代表取締役
Nakamura Hiroki

クリエイティブディレクター / 代表取締役。ブランドマネージャー1級/インターナルブランディング認定コンサルタント/WEBデザイン技能士/WEBマーケティング検定/ネットショップ実務士。

ロゴは、ブランドをつくらない
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こんにちは、アプリコットデザインの中村です。今日は、少し乱暴に聞こえるかもしれないタイトルで書いてみます。「ロゴは、ブランドをつくらない」。デザイン会社の人間が言うことじゃないだろう、と思われるかもしれませんが、ロゴという仕事に関わっていると、ここを勘違いしたまま進んでしまうケースがすごく多いんです。

あのロゴが優れていたから、強くなったのか

まず、ちょっと想像してみてください。かじられたりんごのマーク。緑の丸い中に人魚が描かれたコーヒーのマーク。黄色いM。三本線のスポーツブランド。名前を言わなくても、いくつかは頭に浮かんだと思います。たった一つの形を見ただけで、会社の名前も、なんとなくの雰囲気も、自分がそこで過ごした時間まで、まとめて思い出せてしまう。すごいことですよね。

ここで質問です。あのロゴのデザインが優れていたから、あのブランドは強くなったのでしょうか。僕は、順番が逆だと思っています。

たとえば、かじられたりんごのマーク。あれ、形だけを最初に見せられて「どう思いますか」と聞かれたら、たぶん、そんなに感想は出てこないと思うんです。りんごですね、で終わってしまう。緑の丸いコーヒーのマークも同じで、あのマークが素晴らしかったから、みんながあのお店に通うようになったわけではない。お店の空気、店員さんとのやりとり、あそこで過ごした時間。そういうものが積み重なった結果、あのマークを見ると、その感じが一気に立ち上がってくるようになった。つまり、ロゴが意味を持っていたのではなくて、あとから意味が入っていったんです。

ロゴは「器」だと思っている

僕は、ロゴのことを「器」だと思っています。器って、それ自体はからっぽです。最初は、ただの形。でも、そこにいい体験が注がれていくと、だんだん中身が溜まっていく。逆に、がっかりする体験が注がれれば、それも溜まっていく。同じマークを見ても、いい気持ちになる人とそうでない人がいるのは、その人がその器に何を注いできたかが違うからです。

もう一つ、思い出してほしいものがあります。赤い枠に白い文字だけの日用品のお店。四角の中にカタカナが並んでいるだけの服のお店。どちらも、デザインとしてすごく凝っているわけではありません。むしろ、そっけないくらいシンプルです。でも、強い。見ればすぐ分かるし、なんとなくの雰囲気まで浮かぶ。これは、造形が優れているからというより、その形が長い時間ずっと同じ姿で、いろんな場所に出続けてきたからだと思います。だから、形そのものは静かなのに、思い浮かべるものが多い。

ロゴを変えても、売上は上がらない

だから「ロゴを変えたら、売上って上がりますか」と聞かれたとき、僕は正直にお答えします。ロゴを変えただけでは、たぶん上がりません、と。中身が変わっていないのに器だけ新しくしても、注がれるものは同じですから。むしろ、これまで溜まってきたものを一回こぼしてしまうリスクだってあります。長く使われてきたマークには、その会社が積み上げてきた時間が入っているので。

ここまで聞くと、じゃあロゴなんてどうでもいいのか、という話になりそうですが、そうではありません。器がなかったら、そもそも注げないんです。

ロゴの、三つの働き

ロゴには、大きく三つの働きがあると思っています。

一つ目は、見分けられること。たくさんの会社が並んでいる中で、どれがどれか分かる。名刺でも、看板でも、SNSのアイコンでも、パッと見て「あ、あそこだ」と分かる。これは思っている以上に大事です。人は、思い出せないものは選べないので。

二つ目は、思い出せること。いい商品でも、いいサービスでも、名前や見た目が引っかからないと、思い出してもらえません。「あそこ、なんて名前だっけ」で終わってしまう。ロゴは、記憶のフックみたいなものです。

三つ目は、積み重ねが貯まる場所になること。いい仕事をしても、それが毎回バラバラの見た目で出ていったら、どこにも貯まりません。同じ器を使い続けているから、注いだものが一箇所に溜まっていく。だから僕は、ロゴの価値は「作った瞬間」ではなく、「使い続けたあと」に出てくるものだと思っています。

作るときは、形より前の時間が長い

そう考えると、ロゴを作るときに何をすればいいか、も変わってきます。僕らがロゴのお手伝いをするとき、実は、形を考える時間より、その前の時間のほうが長いんです。この会社は何を大事にしているのか。何をしないと決めているのか。お客さんにどんな気持ちになってほしいのか。誰に向けているのか。そういうことを、ひたすら聞いて、言葉にしていく。

そこが決まっていないと、形の良し悪しを判断できないからです。基準がないまま案を並べると、「なんとなくこっちが今っぽい」とか「社長の好み」とか、そういう話にしかならなくなる。それだと、流行が変わったときに、また変えたくなってしまう。逆に、「うちは、誠実さと親しみやすさの両方を大事にしたい」というところまで言葉になっていれば、「この案は誠実さは出てるけど、ちょっと硬すぎるよね」という会話ができる。好みの話ではなく、方針の話になる。ロゴをつくる仕事は、形を決める仕事というより、その手前の合意をつくる仕事なのだと思います。

作ったあとのほうが、大事

それともう一つ、意外と語られないのですが、ロゴは「作ったあと」のほうが大事です。せっかく作っても、名刺では色が違う、チラシでは勝手に縦に伸ばされている、SNSでは古いマークのまま。こういうことが起きると、器がバラバラになって、注いだものが溜まっていきません。

だからロゴを納品するとき、僕らは使い方のルールもセットでお渡しします。最小サイズはこれくらい、背景が濃いときはこっち、縦横比は変えない、といったことです。細かいことのようでいて、実はブランドが積み上がるかどうかを決めているところ。ルールがあるからこそ、何年経っても同じ器でいられます。

器を新しくする前に、注いでいるものを見てみる

まとめると、こういうことです。ロゴは、ブランドをつくらない。ブランドが溜まっていく器になる。だから、ロゴを新しくすること自体はゴールではなくて、そこに何を注いでいくかのほうが、ずっと大事です。逆に言えば、注ぐものがちゃんとある会社ほど、ロゴがあとから効いてきます。

僕がお客様とロゴのお話をするときも、最初にやるのは形の相談ではなくて、「この会社って、結局どういう会社なんでしたっけ」という確認からです。遠回りに見えて、ここがいちばんの近道だったりします。

もしよかったら、自分の会社のロゴが、この一週間どこに出ていたかを思い出してみてください。名刺、看板、見積書、SNSのアイコン、社用車。そして、その一つひとつの場面で、お客さんはどんな気持ちだっただろう、と考えてみる。ロゴに何が注がれているかは、たぶんそこに出ています。器を新しくする前に、注いでいるものを見てみる。案外、そっちのほうが早く効くことがあります。

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