こんにちは、アプリコットデザインの中村です。
見積もりを送るとき、送信ボタンの手前で、ちょっと指が止まる。金額を打ち込んで、一度消して、また打ち込んで。「この数字で大丈夫かな」「高いと思われないかな」。そんなふうに、送るまでに深呼吸が要る。僕自身、独立してしばらくは、これがとても苦手でした。
今日は、この「見積もりの指が止まる一瞬」について書いてみます。結論から言うと、値段を決めるのが怖いのは、値段を決めるのが下手だからではなくて、自分の仕事の価値をまだ自分の言葉で説明できていないからだ、と思っています。逆に言えば、価値を言葉にできた瞬間から、値段はだいぶ怖くなくなります。
「作業の量」で値段を決めると、苦しくなる
昔の僕は、見積もりを作業の量で計算していました。このデザインは何時間かかるから、時給をかけて、これくらいですね、と。一見フェアなやり方に見えます。でも、実はこれ、けっこう苦しいんです。
作業の時間で値段を決めると、お客さまと自分が「時間の取り合い」のような関係になっていきます。早く終わらせたら安くなる。丁寧に時間をかけたら高くなる。これは、順番が逆です。本来は、腕が上がるほど短い時間でいい結果を出せるはずなのに、そうすると自分の売上が下がってしまう。頑張って上手くなった人が損をする決め方になっているわけです。
もうひとつ。時間で値段を決めていると、お客さまに「この金額の根拠は?」と聞かれたときに、「何時間かかるので」としか答えられません。それは、相手からすればこちらの都合でしかない。だから話が「高い・安い」の交渉になっていきます。価値の話をしたいのに、値段の話になってしまう。
売っているのは、その後に起きる「変化」のほう
ここから抜け出せたのは、値段の前に「この仕事で相手の何が変わるのか」を先に言葉にするようにしてからでした。
たとえば、ロゴを作る仕事。僕が売っているのは、きれいなロゴの画像データそのものではありません。そのロゴがあることで、スタッフさんが自分の会社を胸を張って人に説明できるようになる。お客さまが「ここに頼んでよかった」と感じる第一印象が変わる。売っているのは、その後に起きる変化のほうなんです。
これが言葉にできると、見積もりの意味が変わります。「作業に何時間かかるからこの金額です」ではなくて、「この変化を一緒に作るためにこの金額です」になる。すると不思議なもので、金額を打ち込むときの、あの深呼吸が要らなくなります。その値段は、自分の時間の切り売りではなく、相手にとっての価値に対してつけた値段だからです。だから、堂々と出せる。
「高くしよう」という話ではない
誤解のないように書いておくと、これは「値段を上げましょう」というテクニックの話ではありません。むしろ逆で、自分が何を提供しているのかを、自分でちゃんと分かっているか、という話です。
それが分かっていれば、価値に見合う値段が自然と決まります。結果的に安いこともあるし、堂々と高いこともある。どちらでもいい。大事なのは、その数字の裏に、自分の言葉があるかどうかです。
これはブランディングの現場で、いつも起きていることでもあります。会社の商品やサービスの値段を一緒に考えるとき、「相場だとこれくらいだから」で決めてしまうと、値段が誰の言葉でもなくなってしまう。そうではなくて、「うちは、お客さまの何を変えているのか」を先に言葉にする。その言葉が定まると、値段は自然と決まってきます。価値が先で、値段が後。順番はいつも、こちらです。
今日からできる、ひとつの問い
これは、デザインの仕事だけの話ではないと思っています。広報の方でも、人事の方でも、フリーランスの方でも、何かの価格や、自分の給料、自分の見積もりに向き合う瞬間はあります。作業の量で説明しようとすると苦しくなり、相手の何が変わるかで説明できると少し楽になる。ここは、職種を越えて共通しているのではないでしょうか。
次に見積もりや金額を出すとき、その数字を打つ前に、ひとことだけ自分に聞いてみてください。「この仕事で、相手の何が変わるんだっけ」。答えがすぐ出るなら、その金額は自信を持って出していい。もし答えに詰まったら、それは値段を下げるサインではなく、価値を言葉にする作業がまだ残っているサインです。金額をいじる前に、そちらを先にやる。
僕自身、今でも大きな見積もりのときは、指が止まります。でも昔と違うのは、止まったときに「価格を下げようか」ではなく「価値をちゃんと言葉にできているかな」と考えられるようになったこと。この順番を持てただけで、仕事はずいぶんやりやすくなりました。
今日より明日が、ちょっと楽しくなりますように。自分の仕事の値段の裏に、ちゃんと自分の言葉があると、見積もりの一瞬が、少しだけ誇らしい時間に変わります。
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