こんにちは、アプリコットデザインの中村です。
今日は、「ターゲットを絞る」と「ニーズを絞る」の違いから、会社やお店が価格競争から抜けるための考え方を書きます。ブランディングの相談をしていて、いちばん多くの方が引っかかる言葉が、この「絞る」だからです。
「絞る=お客さんを減らす」だと思うと、こわい
いろんな会社さんとブランディングの話をしていて、「ターゲットを絞ったほうがいいですよ」とお伝えすると、ほぼ必ずこう返ってきます。「絞ったら、お客さんが減っちゃうじゃないですか」「うちは、できるだけ幅広く来てほしいんです」。
この気持ちは、すごくよく分かります。普通に考えたら、対象を狭くすれば、その分お客さんの数は減る気がします。せっかく来てくれるかもしれない人を、自分から手放しているみたいで、こわい。
でも、そのこわさの正体は、じつは言葉のすれ違いから来ているのかもしれません。多くの人が「ターゲットを絞る」と聞いたとき、頭の中で「お客さんを減らす」「範囲を狭める」に変換してしまう。けれど、本当に絞ったほうがいいのは、たぶんそこではないんです。
「誰に」ではなく、「何を求めているか」を絞る
まず、言葉を整理させてください。「ターゲットを絞る」と「ニーズを絞る」は、似ているようで、まったく違う話です。
ターゲットを絞るというのは、誰に売るかを狭めること。30代の女性、地元の子育て世帯、年商何億の製造業。「人」で線を引くやり方です。
ニーズを絞るというのは、何を求めているかを絞ること。その人が抱えている、どの欲求に応えるのかを決めることです。「人」ではなく「求めていること」で線を引く。
僕は、絞るべきはニーズのほうだと思っています。たとえ話で、カフェで考えてみます。
これからカフェを開くとして、「20代から40代の女性がターゲットです」と決めたとします。一見ちゃんと絞っているようで、じつはほとんど何も決まっていません。20代から40代の女性といっても、バリバリ働いている人も、子育て中の人も、一人の時間を大事にしたい人もいる。全員に向けて作ろうとすると、結局、どこにでもある当たり障りのないカフェになります。誰にも嫌われないけれど、誰の心にも刺さらない。
今度は、ニーズで絞ってみます。「一人で、誰にも気を遣わずに、ぼーっとできる時間がほしい人」。求めていることで絞ると、お店の作り方が全部決まってきます。一人席を多めにしよう、店員さんは話しかけすぎないほうがいい、長居できるように電源とWi-Fiを置こう、BGMは落ち着くものにしよう。自然と決まっていきます。
そして、ここが大事なところです。「一人でぼーっとしたい人」向けに作ったこのカフェ、来るのは若い女性だけかというと、そんなことはありません。仕事の合間に一息つきたい人も、育児から少し離れたいお母さんも、定年後に自分の時間を楽しみたい方も来る。年齢も性別もバラバラです。でも、みんな「一人で静かに過ごしたい」という、同じニーズを持って来ている。ニーズをぎゅっと絞ったら、逆に、いろんな人が来るようになったんです。
無印良品も、スターバックスも「誰向け」で作っていない
たとえ話だけだと「うまく言っているだけでしょう」と思われるかもしれないので、みなさんが知っているお店で考えてみます。
たとえば無印良品。「誰向けのお店ですか」と聞かれると、答えにくいと思います。一人暮らしの人も、家族で暮らす人も、年配の方も、学生も会社員も買う。ターゲットで見ると、バラバラです。では何が共通しているか。僕の見方では、あそこに来る人は「あれこれ悩まずに、これでいい、と選びたい人」なんじゃないかと思うんです。派手じゃなくていい、飾りすぎていなくていい、でもちゃんとしていて、外れがない。その安心感を求めて来ている。確実性(安心したい)と、多様性(いろんな暮らしのシーンに使える)を掛け合わせたお店。だから、誰で絞っていないのに、これだけいろんな人が集まってきます。
スターバックスも面白いなと思います。若い人からビジネスマンまで、いろんな人が使う。あれも「誰向け」で作っていません。よく「サードプレイス」、家でも職場でもない第三の居場所、と言われます。家に帰るほどじゃないけれど、ちょっと自分の居場所がほしい。そこにいることが心地いい。僕の見方では、これはつながり(居場所がほしい)と、重要感(名前を書いてもらう、特別な一杯を頼める=ちゃんと扱われている感じ)の掛け合わせです。コーヒーそのものなら、もっと安いところはいくらでもある。でも、みんなスタバに行く。それは「モノ」ではなく、居場所と、大事にされる感じという「ニーズ」に応えているからです。
ちなみに今の話は、あくまで僕が外から見て感じることなので、中の人が本当にそう考えて作っているかは分かりません。ただ、お客さん側から見たときに「あの店は、こういう気持ちに応えてくれる」がはっきりしている。それが、強いブランドなんだろうなと思います。
順番が逆転する ── 先に決めるのは「人」ではなく「ニーズ」
ここで、順序が逆転します。よくある考え方は「まずターゲットを決めて、その人たちが何をほしがっているか考える」。でも、僕がお話ししているのは、その逆です。まずニーズを決める。そうすると、それを求めている人が、後から集まってくる。誰に届くかは、先に決めるのではなく、ニーズを絞った結果として、後から決まる。この順番です。
だから、絞るのが「こわい」という方に伝えたいのは、絞るのはターゲットではなくニーズですよ、ということ。ニーズを絞っても、お客さんは減りません。むしろ、はっきりしたニーズに応えられるお店は「あ、これは私のための場所だ」と感じてもらえるから、かえって刺さる人が増えます。
BtoB・会社対会社の仕事でも、まったく同じ
これは、会社対会社の仕事でも同じです。僕らはホームページやブランディングの仕事もしますが、「どんな会社でも作ります」というスタンスだと、結局、価格で比べられて、安いところに流れていく。
でも、たとえば「作ることがゴールではなく、作ったあと自分たちで判断して前に進めるようになりたい会社」。こうニーズで絞ると、それに共感してくれる会社さんが集まってきます。業種はバラバラです。うちのお客さまも、製造業もあれば、飲食も、士業の方もいる。業種で絞っているわけではありません。でも、求めていることが共通している。だから、話が早いし、いい関係が続きます。ニーズで選び合えた相手とは、価格の勝負にならないんです。
ニーズは、どうやって絞るのか ── 6つの欲求を2つ掛け合わせる
では、ニーズはどうやって絞るのか。うちの会社では、人が求めていることを考えるときに「人間の6つの欲求」を物差しにしています。確実性・多様性・重要感・つながり・成長・貢献。ざっくり言うと、安心したいのか、刺激がほしいのか、認められたいのか、誰かとつながりたいのか、成長したいのか、誰かの役に立ちたいのか。人が何かを選ぶとき、だいたいこのどれかが動いています。
さっきの無印は確実性と多様性、スタバはつながりと重要感。どちらも、6つのうちの2つを掛け合わせています。全部に応えようとすると、またぼやけます。だから、この中から選ぶ。2つを掛け合わせるくらいが、ちょうどいい。1つだけだと弱く、3つ以上入れると、また何屋か分からなくなる。2つの掛け合わせ。ここに、その会社らしさ、そのお店らしさが出てきます。
先ほどのカフェで言えば、「一人でぼーっとしたい」は確実性の欲求。それだけだと、ただ静かなだけのカフェですが、そこに「ここに来ると、ちょっと自分の時間が豊かになる」という成長(自分を整える感じ)が加わると、「静かで、自分と向き合える場所」という独自の色が出てきます。確実性と成長の掛け合わせ。同じ「静かなカフェ」でも、確実性とつながりを掛ければ「一人で来ても居心地のいい、ゆるくつながれる場所」になる。掛け合わせる2つが変われば、色が変わる。だから、真似されにくい。ここが、ニーズを絞ることの、もう一つのいいところです。
まとめ ── 「誰に」ではなく「どんな気持ちに応えているか」から
「ターゲットを絞る」と言われると、お客さんを減らすみたいでこわい。それは、とても自然な感覚です。でも、本当に絞ったほうがいいのは、誰か、ではなく、何を求めているか=ニーズのほうです。
ニーズを絞ると、お店や仕事の作り方が自然と決まってくる。そして、そのニーズに共感してくれる人が、年齢も業種も関係なく、後から集まってくる。無印もスタバも、うちのお客さまも、みんなそうでした。誰に届くかは、先に決めるものではなく、ニーズを絞った結果として、後からついてくる。この順番の逆転が、今日いちばんお伝えしたかったことです。
もし今、「うちは誰に向けてやっているんだろう」と迷っている方がいたら、一度、人で考えるのをやめてみて、「うちは、お客さまのどんな気持ちに応えているんだろう」と、そちらから考えてみると、意外とすっと決まったりします。手が空いたら、6つの欲求のどれとどれかな、くらいのゆるさで、掛け合わせを探してみてもらえたらうれしいです。
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