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ブランディング 2026.08.03

デザインは、盛らないほうがいい

WRITER
Nakamura Hiroki クリエイティブディレクター / 代表取締役
Nakamura Hiroki

クリエイティブディレクター / 代表取締役。ブランドマネージャー1級/インターナルブランディング認定コンサルタント/WEBデザイン技能士/WEBマーケティング検定/ネットショップ実務士。

デザインは、盛らないほうがいい
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こんにちは、アプリコットデザインの中村です。今日は、デザイン会社の人間が言うことじゃないかもしれない話を書きます。「デザインは、盛らないほうがいい」。かっこよく見せるのが仕事でしょう、と言われたら、そうなんですが、長くこの仕事をやってきて、いちばん実感していることの一つが、実はこれだったりします。

撮影で気をつけているのは、実態とかけ離れないこと

僕は、ホームページやパンフレットを作る流れで、自分で撮影に行くことが多いんです。お店、工場、事務所。人を撮ることもたくさんあります。そういう現場でいちばん気をつけているのが、実態とかけ離れないことです。

ときどき、「とにかくおしゃれに見せてほしい」「実物よりかっこよく撮ってほしい」というご要望をいただきます。今はずいぶん減りましたが、以前はよくありました。この気持ちは、すごく分かるんです。せっかくお金をかけて作るなら、よく見せたいですよね。でも、そこで盛ってしまうと、逆に印象が悪くなることがあります。

盛ると、どうなるか

写真がすごくきれいだと、見た人の中で期待がぐっと上がります。「ここ、いいところだな」と。それ自体はいいことなんですが、問題はその次です。実際に足を運んだとき、その期待と目の前のものが一致していないと、人は「あれ?」となる。このギャップは、結構強く残るんですよね。

旅館やホテルで、よくあると思います。夜のきれいな外観の写真で「豪華そうだな」と思って行ったら、そうでもなかった。別にその場所が悪いわけじゃなくて、むしろ普通にいいお店だったりする。それなのに、がっかりしてしまう。これは、その場所そのものを評価しているのではなくて、思っていたのとの差を見ているからです。

逆のことも起きます。写真はそんなに凝っていなかったのに、行ってみたら思ったより良かったお店。こういうところは、また行きたくなるし、人にも勧めたくなる。差が、いい方に出ているからです。つまり印象は、実物の良し悪しだけでなく、事前に持たせた期待との関係で決まる。だから盛るというのは、自分でハードルを上げてから、そのハードルの下をくぐりに行くようなことなんです。

削れていくのは、信頼

いちばんもったいないのは、このとき失っているのが「がっかり」だけじゃないことです。「思っていたのと違った」という経験をすると、人はその後に出てくる言葉も、少し疑うようになります。「この会社が言っていることは、ちょっと盛ってあるのかもしれない」と。一度そう思われると、その後どれだけ本当のことを丁寧に伝えても、まっすぐには届きにくくなる。信頼って、そういうところで削れていくものだと思っています。

盛らないのは、手を抜くことじゃない

では、盛らないのは手を抜くことなのか。ここははっきり違うと言いたいんです。僕らは撮影のとき、一番いい状態で撮るための努力はします。光がいい時間を狙う、角度を探す、掃除をして余計なものをどける、人の表情が緩む瞬間を待つ、仕上げの調整もする。やっているのは、実際にそこにあるものの、一番いい瞬間を捕まえることです。

やらないのは、ないものを足すこと。狭い場所をうんと広く見せる、置いていないものを置いてあるように見せる、普段と全く違う空気に作り変える。ここを超えると、写真は嘘になります。同じ場所を撮っていても、この線の内側か外側かで、あとから返ってくるものがまるで変わってきます。

写真で足すより、現場を整えるほうが早い

それと、現場でよく思うのは、写真の中で足そうとするより、実際の現場を整えるほうが、たいてい早いということです。撮影の前に一緒に片付ける、いらないものをしまう、動線を少し変えてみる。それだけで、写真は見違えます。しかも、それはお客様が帰ったあとも、そのまま残る。写真の中だけでよくしたものは、その一枚の中にしか存在しません。でも、現場を整えて撮ったものは、来てくれた人が同じものを見られる。どちらがあとで効いてくるかというと、僕は圧倒的に後者だと思っています。

採用写真は、もっとはっきり出る

人を撮るときは、これがもっとはっきり出ます。採用のページに載せる写真は、かっちり決めた写真を並べたくなるんですが、実際に効いてくるのは、その会社の人が普通に働いている表情なんですよね。作りすぎた笑顔は、見ている人にすぐ伝わります。何より、来てくれた人が「入ってから、思っていた雰囲気と違った」となってしまう。これがいちばん辛いやつだと思うんです。せっかく来てくれたのに、お互いに合わなかった、という話になってしまう。見せ方を実物に寄せていたら、そもそも起きなかったことです。

採用でも集客でも、同じだと思っています。盛って集めた人は、あとで離れていく。実物を見せて来てくれた人は、そのまま続く。数だけ見ると前者のほうが多く見えるので迷うところなんですが、減る数で見ると、たぶん逆なんです。

盛るのではなく、埋もれた光に、光を当てる

では、なんで人は盛りたくなるのか。僕は、自分たちの価値に、自分たちで気づけていないからだと思っています。このままの自分たちでは選ばれない気がする。だから何かを足して埋めなきゃいけない気がする。この感覚は、僕もよく分かります。

でも、お客様と話していると、選ばれている理由は、たいていその会社が「そんなの当たり前でしょう」と思っている部分にあるんです。毎朝ちゃんと掃除をしている。断らずに一回見に行く。無理なものは無理と言う。本人たちは全く価値だと思っていない。だから、そこは見せずに、全然関係ないところを飾ろうとしてしまう。僕らの仕事は、たぶん盛ることじゃなくて、すでにあるのに埋もれて見えなくなっているものを見つけて、ちゃんと見えるようにすることです。ない光を書き足すのではなく、あるのに当たっていない光に、ちゃんと当てる。感覚としては、足すより、磨く、余計なものを取り除く、のほうが近いと思います。

それに、盛った状態は、維持するのが結構しんどいんですよね。背伸びして見せたら、その背伸びに合わせ続けないといけない。実際の自分たちとの距離が空くほど、苦しくなっていく。でも、等身大の一番いいところを見せているなら、そのまま続けられる。無理がない分、長く走れます。ブランドって、一発のインパクトじゃなくて、「思ってた通りだった」の積み重ねなんじゃないかと思っています。地味なんですけど、これが一番崩れにくい。

もしよかったら、一度、自分の会社のホームページや写真を、初めて来る人の目で見てみてください。そして、実際に来てくれた人がその場に立ったとき、「思ってた通りだな」と感じるかどうかを想像してみる。もし「ここはちょっと盛ってるかも」というところがあったら、そこは直したほうが、あとが楽です。写真を撮り直すというより、その部分を実際に良くしてしまう。そのほうが、たぶん近道です。一番強いのは、「実物のほうが良かった」と思ってもらえることですから。

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