こんにちは、アプリコットデザインの中村です。今日は、よく質問される「ターゲットとペルソナって、何が違うんですか」という話を書いてみます。少し固い言葉ですが、実際の現場では、この違いがそのまま言葉の届き方に出てきます。
「20代の女性が喜ぶもの」は、選べない
いきなり実務の話をする前に、身近なところから。「20代の女性が喜ぶものを選んでください」と言われたら、結構困りませんか。範囲が広すぎて、何を買えばいいのかぼんやりしてしまう。
でも、「来週が誕生日の妹に」と言われたら、急に選べる気がしてきます。あの子、最近仕事が忙しそうだったから、家でホッとできるものがいいかな、とか。顔が浮かぶと、選べるんですよね。
この「20代の女性」と「誕生日の妹」の違いが、ターゲットとペルソナの違いにかなり近いと思っています。
ターゲットは、狙う層=地図
ターゲットというのは、狙うお客さんの層、塊のことです。たとえば「30代の女性で、都市部に住んでいて、共働きで」といった属性で区切ったグループ。お店やサービスをやるときに、一体誰に向けてやるのか、その大きな範囲を決めるものです。
これはこれで、とても大事です。日本中の全員に向けて、というのは現実的ではないので、まずどのあたりを狙うのか、地図の上で場所を決める。それがターゲットです。
ただ、この地図だけだと、まだ顔が見えません。「30代女性、共働き」と言われても、その人が今日どんな一日を過ごして、何にほっとして、何にもやもやしているのか、そこまでは見えてこない。人の心を動かす言葉は、この「顔」のところから生まれるので、地図だけだと少し足りないんです。
ペルソナは、その中に立っているたった一人
そこで出てくるのがペルソナです。ペルソナは、そのターゲットの中にいるたった一人を、まるで実在の人のように具体的に描いたものです。名前をつけて、年齢だけでなく、どんな仕事をしていて、朝は何時に起きて、休みの日は何をしていて、最近どんなことに悩んでいて、というところまで想像していきます。実在はしないけれど、いかにもその辺にいそうな一人の人物をつくっていく。
ここで一つ、勘違いされやすいところがあります。ペルソナは、その層の「平均的な人」を出すことではありません。むしろ逆で、思いっきり具体的な一人にしていきます。
「30代の平均的な女性」と言われても、なかなか顔は浮かびません。いろんな人をならして真ん中を取った、のっぺりした像だからです。でも、「2駅先のマンションに住んでいて、2歳の子どもがいて、朝はいつもバタバタしていて、寝る前の10分だけが自分の時間」というところまで具体的にすると、急に顔が見えてきます。
平均に寄せるとぼやけて、一人に寄せるとくっきりする。ここが結構大事なところです。
一人に絞ったら、届かなくなるのでは?
ここで多くの方が引っかかると思います。一人にまで絞ってしまったら、その他の大勢に届かなくなるんじゃないか。むしろ広く構えたほうが、たくさんの人に当たるんじゃないか。すごく自然な感覚だと思います。
でも実際は、逆のことが起きます。みんなに向けた言葉は、誰の心にも残らないんです。
駅前を歩いていて、「皆さん、ぜひお立ち寄りください」と書いてある看板があっても、たぶん素通りします。自分に言われている気がしないからです。でも「仕事帰りに、少しだけ一人になりたいあなたへ」と書いてあったら、「あ、それ今の私かも」と足が止まる人がいる。全員に呼びかけると自分ごとにならないのに、たった一人にはっきり呼びかけると、それに当てはまる人が自分のことだと感じてくれる。
ラブレターを想像すると分かりやすいかもしれません。「世界中の皆さんへ」で始まる手紙は、なんだか心に響かない。でも、たった一人に宛てて「あなたのこういうところが好きです」と書かれた手紙は、とても強い。そして不思議なもので、一人に向けて本気で書かれた言葉は、似た気持ちを持っているたくさんの人の胸にも届いていきます。一人に絞ることは、狭めることではなく、深く届かせるためのやり方なんです。
決められないのは、情報ではなく顔が足りないから
もう少し実務に寄せます。カフェをやるとして、「幅広い層に来てほしい」と考えていると、メニューも内装も、なんとなく無難な、どこにでもあるような感じになりがちです。でも「平日の昼間に、一人でゆっくり本を読みたい人」を思い浮かべると、席の間隔はどうしようか、音楽はどのくらいの音量がいいかな、といったことが決められるようになります。
求人でも同じです。「やる気のある人募集」だと誰にも刺さらないけれど、「前の職場で、数字ばかりを追うのに疲れてしまった人へ」だと、「あ、私のことだ」と思う人が出てきます。
決めきれないとき、足りていないのは情報量ではなく、たった一人の顔だったりします。
その一人は、空想でつくらない
ちなみに、この一人は、頭の中だけで勝手につくるものではありません。実際にいるお客さんの顔や、話を聞かせてもらったときの言葉。そういう本物の欠片を持ち寄って組み立てていきます。
都合のいい理想のお客さんを空想でつくってしまうと、その人はたいてい現実には存在しなくて、言葉が上滑りするんですよね。勝手に盛るのではなく、実際の声から一人を立ち上げる。ここは気をつけたいところです。
ペルソナは、迷ったときに立ち返る判断の基準
僕らがブランディングのお手伝いをするときも、この一人を描くところに結構時間をかけます。会社のロゴをどうするか、どんな言葉を使うか、写真はどういう雰囲気にするか。そういうことを決めていくときに、たった一人のはっきりした顔がないと、判断がブレてしまうんです。あれもいいな、これもいいな、で、だんだん八方美人になっていく。
でも「この一人だったら、こっちの言葉のほうが響くよね」と話せると、みんなが同じ方向を向いていきます。ペルソナは飾りではなくて、迷ったときに立ち返る判断の基準なんですね。だから僕らは、正解を一つに決めるためというよりも、チームやお客様と一緒に同じ人を思い浮かべるために、この一人を描いています。
地図と、そこに立つ一人
念のためですが、じゃあターゲットはいらないのかというと、そうではありません。どのあたりを狙うのかという地図がないまま、いきなり一人だけを見てしまうと、今度はその一人だけの偏った話になってしまいます。
広く場所を決めるターゲットと、そこに一人を立てるペルソナ。この二つは、どちらかを選ぶものではなく、両方セットで使うものです。地図があるから安心して一人に近づけるし、一人がいるから地図に体温が通ってくる。そういう関係だと思っています。
もしよかったら、何かを誰かに届けたいとき——お店の紹介文でも、SNSの投稿でも、採用の一言でも——みんなに向けて書くのを一回やめてみてください。「あの人に読んでほしいな」という一人を思い浮かべてから書いてみる。友達でも、昔の自分でもいいと思います。その一人に話しかけるつもりで言葉を選ぶと、不思議と、もっと多くの人に届く言葉になっていく気がします。
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