こんにちは、アプリコットデザインの中村です。同じ日に、性格の違う相談が二つ並ぶことがあります。どちらも受けたいけれど、今月はもう無理だな、と思う。そういうとき、たいてい楽なほうが残ります。
楽な仕事が悪いという話ではありません。楽な仕事は、だいたい、前にやったことがある仕事です。段取りを覚えていて、どこで時間がかかるかも分かっている。見積もりも外しません。会社を回していくうえで、こういう仕事は要ります。全部が初めての仕事だったら、たぶん体がもちません。
決め手が全部、手前にある
引っかかるのは、二つ並んだときに毎回そちらを取ってしまうほうです。
楽なほうを取るとき、何を見て決めているか。今週の自分の都合です。今、手が空いているか。今月、数字が足りているか。これで決めると、決め手が全部、手前にあります。終わったあとに何が残るかは、考えないまま決まっていきます。
これを一年続けると、できることが去年と同じになります。仕事はしていて、売上も立っている。なのに、人に見せられるものが増えていない。そうなると、次に来る相談も同じ種類のものになります。同じ種類ばかりだと、相手から見て、比べるところが値段しか残らなくなります。
三つの角度で考える
では、楽しそうなほうをどうやって見分けるか。ここを気分で決めると、たぶん失敗します。僕は、来た相談を三つの角度で考えています。
- やったことのない工程が、ひとつ入っているか。全部が初めてでなくていいんです。撮影が入る、とか。使う人に会って話を聞く、とか。そういうものがひとつあれば、終わったときに、できることがひとつ増えています。
- 終わったあと、人に話したくなるか。実績になるかどうかの話です。話せない仕事は、残りません。一年に二つか三つあるだけで、外からの見え方は変わっていきます。
- 喜ぶ人の顔が、浮かぶか。浮かばないときは、だいたい、その相談で金額の話しか出ていません。誰が受け取るのかが見えていない仕事は、途中で迷ったときに、何を基準に直せばいいか分からなくなります。
三つとも当てはまったら、迷わず取ります。当てはまるのがあってもひとつなら、それは前にやったことがある仕事のほうです。取ってもいいのですが、会社を回すための仕事だと分かったうえで取ります。現場でいちばん多いのは、ひとつかふたつ当てはまるものです。そこが考えどころになります。
建具屋さんで当ててみる
ここからは作例です。家の建具をつくっている建具屋さんに、ある日、相談が二つ来るとします。
ひとつめは、付き合いのある工務店から、いつもの規格のドアを二十枚。寸法も納まりも決まっています。何日かかるかも、いくら残るかも分かっています。
ふたつめは、古い家を直している方からの相談です。もとから入っていた建具を活かして、足りないところだけ新しくつくれないか。何枚要るかも、まだはっきりしません。住んでいる方に話を聞きに行くところから、始まります。金額は、ひとつめより小さい。
ドア二十枚に三つを当てます。やったことのない工程はありません。終わったあと人に話したくなるかというと、去年と同じ話になります。喜ぶ人の顔は浮かびます。いつも頼んでくれる工務店の、担当の方です。当てはまるのは、三つめひとつ。
古い建具のほうです。やったことのない工程は、住んでいる方に話を聞くところ。ひとつ入っています。人に話したくなるかというと、これは話したくなります。喜ぶ人の顔も浮かびます。その家に住んでいる方と、その家に帰ってくる子どもです。三つとも当てはまります。
それで、古い建具のほうを取るとします。半年くらい経つと、こういうことが起きます。その家を見た近所の方から、うちの縁側もお願いできませんか、と相談が来る。古いものを活かして直せる建具屋、として見られるからです。ドアのほうを取っていたら、この相談は来なかったと思います。
全部を埋めなくていい
全部を楽しそうな仕事で埋めようとすると、たぶん続きません。僕の感覚では、二割か三割で十分だと思っています。十件受けるうちの二、三件に、やったことのない工程がひとつ入っている。それくらいでも、一年たつと、できることは増えていきます。
取らないと決める線も二つあります。ひとつは納期です。やったことのない工程を入れるには、失敗する時間が要ります。はじめてやることは、たいてい一回では決まりません。それが取れない納期なら、楽しそうだったものが、ただしんどいだけの仕事に変わります。
もうひとつは、自分にしかできない形になるときです。うちの会社でいちばん弱いのが、ここです。僕にしかできない仕事が増えると、会社としては危うくなります。分かっているのに、楽しそうな仕事ほど、つい自分で抱えてしまう。誰かと一緒にやる形にできないか。ここは今もうまくできていないので、これから工夫していきたいと思っています。
この三か月で受けた仕事の中から、三つとも当てはまった仕事と、あってもひとつだった仕事を、ひとつずつ思い出してみる。二つ並べてみると、自分がどっちを多く取ってきたかは、だいたい分かると思います。
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