こんにちは、アプリコットデザインの中村です。採用サイトやブランディングのお手伝いで、社員の方に話を聞く時間をいただきます。そこでよく出てくるのが「特に辞める理由がないので」というひと言。不満をぶつけられるより、ずっと安心な返事に聞こえます。この返事だけでは、その方がここで何を増やしたいのかは分からないままです。
その時間では、二つのことをうかがうようにしています。この会社で何を増やしたいか。今の暮らしで守っておきたい時間はあるか。この二つに答えが出ると、会社が何を用意すればいいかが決まります。この二つは、会社ご自身の面談でも同じだと思います。
増やしたいものと守りたい時間を聞く
転職を考えるときは、条件を書き出します。次に何をしたいのか、給料と時間はどう変わるのか。求人と見くらべて、何日も迷います。
残るほうを選ぶときに手元にあるのは、入社のときの書面だけです。任される仕事と働く時間と給料は、そこに書いてあります。変更の範囲は書いてあっても、これから任せる仕事までは書いてありません。
気がついたら、去年と同じ席に今年も座っている。そのまま何年か過ぎます。
会社から見ると、この状態は落ち着いて見えます。面談でも大きな話になりません。そのかわり、その方がここで何を増やしたいのかは、会社に分からないままです。条件のいい話がその方に届いたとき、会社から出せる話がありません。任せられる仕事も、見直せる時間も、まだ話し合っていないからです。
「ここで採用の発信を企画する経験を積みたい」と話してもらえたら、比べ方が変わります。給料のほかに、その経験が積めるかどうかという見方が増えます。会社のほうにも、考えることが出てくる。その経験を積める仕事が、うちにあるかどうか。
定着のご相談をいただくと、待遇と制度の話から始まることが多いのですが、僕はその手前にこれがあると思います。ここで何を増やしたいのかを本人が言えていて、会社もそれを聞いているか。ここが空いたまま制度だけ足しても、だれに向けた制度なのかが決まらないと思います。
理由は本人の言葉で言い直してもらう
うちの会社には、判断を代わりにしない、という考えがあります。お客様に対しても、社内に対しても同じです。
なので「この会社にいる理由」も、本人に言葉にしてもらうところから始めます。理念に共感してほしい、成長できる環境だと思ってほしい。そう言いたくなります。ただこちらで用意して配った言葉は、その方が明日どの仕事から手をつけるかまでは決めてくれません。自分の仕事に引き寄せて言い直してもらえたときに、次に頼む仕事の中身を相談できるようになります。
面談の場を先に決めておく
この話は、聞く場を決めておかないと出てきません。仕事の合間に聞いても、抱えている案件の話で終わると思います。
社員が二十人ほどの会社で、広報を担当している方がいるとします。今の仕事は、社内から渡された中身を記事にして、更新すること。慣れていますし、職場の人とも話しやすい。辞めるほど、いやなことはありません。
面談で「ここで何を増やしたいですか」と聞いたら、採用のために何を伝えるかを自分で考えてみたい、という話が出てきた。守っておきたい時間のほうでは、火曜は子どもの迎えがあるので定時で上がりたい、という話が出た。ここで会社の側にやることが出てきます。どこまで任せられるのか。今の仕事と合わせて、その時間が取れるのか。任せる予定がないなら、ないとお伝えする。あいまいにすると、期待だけが残って、あとで辞める理由に変わります。
この作例では、会社が任せると決めます。次の採用記事から、何を伝えるかを本人に考えてもらう。書く本数は今までどおりで、考えるための時間として月に二日をあける。火曜に定時で上がれるよう、締め切りは水曜以降に置く。そこまで決めてから、その場で本人に伝える。
すると、次の記事の作り方が変わります。応募する人が何を知りたいのかを、採用担当に聞きに行く。働いている人の声を記事にできないか相談する。出したあとに読まれたかを確かめる。受け持つページの数は同じまま。増えるのは、書き出す前の時間。
聞いた言葉が求人原稿の材料になる
この聞き取りには、もうひとつ、ありがたいところがあります。社員の方が話した「ここで増やしたいもの」と「守っておきたい時間」は、そのまま求人の原稿を書く材料になります。
求人の原稿で手が止まるのは、自社のよいところが思いつかないからです。制度を並べると、よその会社と同じ顔。いま働いている方が、ここで何を増やせていて、どの時間を守れているのか。それを聞いてある会社では、うかがった言葉が、そのまま原稿の下書きになると思います。載せてよいかどうかと、どの言い方で出すかを、本人に見てもらってから決めます。
うちの会社は、お客様が自分で決められる材料をそろえたいと思ってやってきました。社内も同じにしたいと思います。ここで働く理由を決めるのは本人。会社がそろえるのは、聞く場と、任せる仕事や働く時間についての返事です。
次の面談で「特に辞める理由がないので」と返ってきたら、そのあとに二つ聞いてみてください。ここで何を増やしたいですか。守っておきたい時間はありますか。その場で答えが出てこないこともあります。日を置いてから、話しに来てもらえることもあります。
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