こんにちは、アプリコットデザインの中村です。今日は、店や会社やサービスに名前をつけるときの順番について書きます。僕は、名前を響きのいい言葉から選ぶという決め方をしていません。
いちばん多いのは、候補をたくさん出して、そこから選ぶやり方だと思います。紙に十個くらい並べて、声に出してみて、どれがいいかを話し合う。多数決になることもあります。そのまま決まらずに、開店の日だけが近づいてくる。ご相談をいただくのは、たいていこの状態になってからです。
足りないのは候補ではない
候補をもう十個足しても、この会議は終わりません。声に出した瞬間はどれも良く聞こえて、そのくせ決め手だけが出てこないからです。比べる基準がないので、最後は誰かの好みか、いちばん長く粘った人の案になります。
足りていないのは、名前の候補ではないと思います。その手前にある、この店は何をする場所なのかという一文のほうです。
すでに社内にある言葉を選び直す話ではありません。これからつける名前を、どこから引っぱってくるかという話です。
一文は二十文字ちょっとで書く
先に、コンセプトを一文にします。長くなくて大丈夫です。「何々ではなく、何々を」でもいいですし、「何々する時間は、何々する時間」という形でもいい。
うちが長野市で運営している tone village の中に、空と風というトリミングサロンがあります。この店が自分で言っている一文は「特別な日常ではなく、穏やかでずっと続く日常を」です。二十文字ちょっと。それくらいで足ります。
一文にすると、そこで使った言葉が、そのまま名前の候補になります。穏やかで、ずっと続いて、いつもそこにある。その言葉の先に、空と風という名前がありました。この名前は迷いませんでした。一文ができてから浮かんで、これ以外にないな、という形でそのまま決まっています。
書くときに気をつける二つ
一文を書くときに気をつけたいのは、長くしすぎないことと、かっこよくしようとしないことです。
二つ、三つと足していくと、全部大事に見えてきて、結局どれも残りません。かっこいい言葉を入れると、今度は自分たちの実感から離れます。実感から離れた一文は、忙しいときに思い出せないので、そのうち使われなくなります。
書けないときは、直近で来てくださったお客様を三人思い出してみてください。その三人が帰るときに、どんな顔をしていたか。何が変わって帰っていったか。共通しているものが、その一文に入ってくるんじゃないかと思います。
一文が決まるとやることが決まる
一文が働きはじめるのは、名前が決まったあとだと思います。
さっきのトリミングサロンは、はじめましての日にトリミングをしません。初めて来ていただいたわんちゃんには初回体験プランをお願いしていて、その時間で性格や健康の状態を伺いながら、これからの進め方を一緒に決めます。実際に切りはじめるのは二週間後です。
最後に来てから一年以上あいた子にも、同じように場所とスタッフを思い出してもらう時間をお願いしています。一年あくと、初めての日とあまり変わらないからです。
売上のことだけを考えたら、その日に切ったほうがいいに決まっています。それでもこうしているのは、特別な一日をつくる店ではなく、ずっと続く日常のほうに居たいからです。
やらないことも同じところから決まる
この店は、大型犬のわんちゃんをお受けしていません。受けられる数を増やすより、一頭ずつに時間をかけるほうを取っているからです。やらないことが決まっている、というのはこういうことかもしれません。
逆にコンセプトがないまま名前だけを決めると、断る理由が出てきません。良さそうな話が来るたびにメニューを足していって、一年後には何の店か分からなくなる。そうなると、お客様が比べるところは値段しか残りません。
会社の中で新しいサービスを始めるときも同じです。名前を先に決めて、中身はこれから、という進み方をする。そうすると、その名前は社内の呼び名にしかなりません。あとから中身が固まったときには名前のほうが合わなくなっていて、結局もう一度つけ直すことになります。
手元で始めるなら
- いま挙がっている名前の候補を、いったん全部横に置く。
- 自分の店や会社を一文で書く。二十文字から三十文字。読点は一つまで。
- 直近のお客様を三人思い出して、共通していたことが一文に入っているか確かめる。
- 書けた一文をもう一度読む。名前の候補は、たぶんその中にあります。
名前を探している時間を、一文を書く時間に替える。名前は、そのあとで決まります。
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